公開日:2025.04.23 最終更新日:2025.05.19
ASD(自閉スペクトラム症)とは?特徴・診断基準・支援方法を徹底解説
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- このコラムのまとめ
- ASD(自閉スペクトラム症)の基本的な理解から特徴、診断、治療、支援制度まで総合的に解説。社会的コミュニケーションの困難さやこだわりなどの特性、併存しやすい障害、就労支援などを紹介し、適切な理解と支援があれば充実した生活を送る可能性を示します。
もくじ
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ASD(自閉スペクトラム症)とは?基本的な理解
ASD(自閉スペクトラム症/Autism Spectrum Disorder)とは、対人関係やコミュニケーションに困難が生じる発達障害の一種です。生まれつきの脳機能の特性によるもので、特徴的な認知スタイルや行動パターンを持っています。
ASDの正式名称と意味
ASDは「Autism Spectrum Disorder」の略称で、日本語では「自閉スペクトラム症」と訳されます。「スペクトラム」とは「連続体」という意味で、多様な症状や特性が連続的に広がっていることを表現しています。
発達障害専門医
2013年に『DSM-5』(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)で「自閉スペクトラム症」という診断名が導入され、2022年(日本語版は2023年)の『DSM-5-TR』で正式に統一されました。
発達障害としてのASDの位置づけ
ASDは発達障害の一つです。発達障害とは、脳の機能的な特性により、物事の捉え方や行動に違いが生じ、日常生活で支障が出る生まれつきの状態を指します。
発達障害は主に以下の3つに分類されます:
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如・多動症)
- LD/SLD(限局性学習症)
これらは独立して現れることもあれば、複数が併存することもあります。また、その特性は人によって多様で、同じ診断名でも症状の現れ方や程度に大きな個人差があります。
ASDと旧診断名(アスペルガー症候群・広汎性発達障害など)の関係
以前は以下のような診断名が使われていましたが、現在はASDという診断名に統合されています:
- アスペルガー症候群(知的・言語的発達に遅れがないタイプ)
- 自閉症(古典的自閉症)
- 高機能自閉症
- 広汎性発達障害(PDD)
2013年の『DSM-5』改訂で、これらを厳密に区分するのではなく、連続的なスペクトラムとして捉える現在の考え方に変更されました。これは、これらの障害に共通する特性が人によってグラデーションのように異なり、明確な境界線を引くことが難しいという認識に基づいています。
臨床心理士
ASDの主な特徴と症状
ASD(自閉スペクトラム症)の特徴や症状は人によって異なりますが、主に「社会的コミュニケーションの困難さ」と「限定的・反復的な行動やこだわり」の2つの中核症状があります。また、多くの方に「感覚過敏・鈍麻」の問題も見られます。
社会的コミュニケーションの困難さ
ASDの方は社会的コミュニケーションに独特の困難を抱えることが多いです。「空気が読めない」などと表現されることもありますが、実際はより複雑な特性です。
対人関係の築きにくさ
対人関係において以下のような特徴が見られることがあります:
- 相手の気持ちや意図を察しづらい
- 会話がかみ合わないことがある
- 一方的なコミュニケーションになりやすい
- 相手の立場に立って考えることが苦手
非言語コミュニケーションの理解の難しさ
言葉以外のコミュニケーション手段の理解や使用に困難があることも特徴です:
- 人と目線が合いにくい
- 比喩や冗談を理解しづらい
- 表情や身振りの意味を読み取りにくい
限定的・反復的な行動やこだわり
特定の物事に対する強いこだわりや、反復的な行動パターンも特徴的です。
ルーティンへの強いこだわり
変化への対応が苦手で、決まった手順や環境を好む傾向があります:
- 予定変更に強い不安を感じる
- 同じ順序や方法へのこだわり
- 臨機応変な対応が苦手
発達支援専門家
感覚過敏・鈍麻の問題
ASDの方は感覚処理に特異性を持つことが多く、以下のような特徴があります:
- 特定の音や光に極度の不快感を示す
- 特定の触感に敏感または鈍感
- 痛みに鈍感だったり、特定の食感を極端に嫌がったりする
これらのASDの特性は、DSM-5の診断基準にも含まれており、特に感覚の問題は日常生活に大きな影響を与えることがあります。
適切な環境調整や支援によって、これらの困難を軽減することが可能です。
ASDの発生原因と診断
ASD(自閉スペクトラム症)の原因については、完全には解明されていませんが、科学的研究によって遺伝的要因と環境的要因の複合的な影響が示唆されています。診断は標準化された基準と専門的な検査によって行われます。
ASDの主な原因
ASDは先天的な要因で脳機能の発達にアンバランスさが生じる状態です。その特性と生活環境がうまくマッチしない場合に、困りごとが出てきます。
遺伝的要因
研究によれば、ASDの発症には複数の遺伝子が関わっていると考えられています:
- ASDの家族内発生率は高く、血縁者にASDがいる場合リスクが高まる
- 一卵性双生児の場合、一方がASDであれば、もう一方もASDである確率が高い
- 複数の遺伝子が相互に作用している
遺伝学研究者
環境的要因
遺伝的要因に加えて、胎児期や出生時の環境要因も影響すると考えられています:
- 妊娠中の感染症や特定の薬剤への曝露
- 妊娠中や出産時の合併症
- 早産や低出生体重
かつては「親の育て方」がASDの原因であるという説もありましたが、現在の科学的研究によってこうした説は完全に否定されています。
ASDの診断基準と検査方法
ASDの診断は、精神科医や小児科医、発達障害の専門医によって行われます。診断には標準化された診断基準と様々な検査が用いられます。
診断基準は、アメリカ精神医学会の『DSM-5』に基づき、以下の2つの領域に分けられます:
- 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥
- 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式
診断過程では、以下のような検査や情報収集が行われます:
- ADOS-2(自閉症診断観察検査)などの標準化された検査
- 発達歴の聴取
- 現在の困りごとや症状に関する聞き取り
- 家族や周囲の人からの情報収集
ASDの発症率と男女差
近年の研究では、以下のような傾向が示されています:
- 国立大学法人弘前大学の調査によると、5歳児のASD有病率は約3.22%
- 男性が女性より約3~4倍高い診断率を示す
- 女性は「カモフラージュ」により診断されにくい傾向がある
出典:
ASDの方の多くは他の発達障害や精神疾患を併存していることも特徴的です。適切な診断と支援によって、生活の質を向上させることが可能です。
ASDの治療と支援アプローチ
ASD(自閉スペクトラム症)には完治させる治療法は確立されていませんが、特性に合わせた様々な支援アプローチにより、生活の質を向上させることができます。治療や支援の目的は、ASDの特性による困難を軽減し、個人の強みを活かしながら社会生活を送りやすくすることです。

環境調整と合理的配慮
ASDの人の困りごとに対する基本的なアプローチとして、環境調整や合理的配慮があります。これは本人の特性に合わせて環境を整えることで、困難を軽減する方法です。
- 物理的環境の調整:感覚過敏に配慮した照明や音環境の調整
- スケジュールの視覚化:予定や手順を視覚的に示し、見通しを立てやすくする
- コミュニケーション支援:明確で具体的な指示、視覚的サポートの活用
発達支援専門家
心理社会的療法
心理社会的療法はASDの人の社会適応やコミュニケーション能力の向上、ストレス管理などを目的としたアプローチです。
認知行動療法(CBT)
認知行動療法は、思考パターンや行動の変容を通じて問題解決を図る心理療法で、ASDの人の不安やうつなどの二次障害への対処や、社会的スキルの向上に役立ちます。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)
SSTは、社会的相互作用やコミュニケーションスキルの向上を目的としたプログラムで、実践的な訓練を通じて社会生活での対応力を高めます。
薬物療法の役割と限界
ASDの中核症状を直接改善する薬剤はありませんが、併存症や特定の症状に対して薬物療法が検討されることがあります。例えば、強い不安や抑うつ、睡眠の問題などに対して、状況に応じた薬物治療が行われます。
ASDの人が利用できる福祉サービスと制度
ASD(自閉スペクトラム症)の方は、特性に応じて様々な福祉サービスや支援制度を利用することができます。これらを適切に活用することで、日常生活や社会生活の質を向上させることが可能です。
障害者手帳の取得メリット
ASDの診断を受けた方は、症状の程度によって精神障害者保健福祉手帳を取得できます。取得には主治医の診断書が必要で、障害の程度によって1級から3級までの等級が決まります。
主なメリット:
- 各種福祉サービスの利用資格
- 税金の軽減措置
- 公共交通機関の運賃割引
- 障害者雇用枠での就労の可能性
社会福祉士
利用可能な福祉サービスの種類
ASDの方が利用できる主な福祉サービスには以下があります:
- 児童発達支援/放課後等デイサービス(18歳未満)
- 就労移行支援/就労継続支援(就労に向けた訓練と支援)
- 居宅介護/移動支援(日常生活や外出の支援)
- 発達障害者支援センター(相談支援、発達支援など)
経済的支援制度
経済面での主な支援制度:
- 障害年金(国民年金/厚生年金)
- 特別児童扶養手当(20歳未満の障害児を養育する場合)
- 自立支援医療(精神通院医療費の軽減)
これらの支援制度は申請が必要です。詳細は市区町村の窓口や発達障害者支援センターに相談すると良いでしょう。
ASDに併存しやすい障害・疾患
ASD(自閉スペクトラム症)の方は、他の発達障害や精神疾患を併せ持つことが少なくありません。併存症があると症状や困難が複雑になることがあり、適切な診断と支援が重要です。
他の発達障害との併存(ADHD・LD)
ASDは他の発達障害と併存することが多く、特にADHD(注意欠如・多動症)との併存率が高いことが知られています。研究によると、ASDの方の約30~50%がADHDの特性も併せ持っていると報告されています。
- ADHD:不注意、多動性、衝動性を主な特徴とする発達障害
- LD/SLD:知的能力に問題がなくても特定の学習領域に困難がある状態
出典:
小児精神科医
ASDによる二次障害
ASDの特性により社会生活でのストレスが長期間続くと、様々な精神疾患(二次障害)を発症するリスクが高まります。
不安障害
ASDの特性である予測困難な状況への不安や、社会的場面での困難さが、不安障害の発症につながることがあります。社交不安障害、全般性不安障害、パニック障害などが見られます。
うつ病
ASDの方は、一般人口と比較してうつ病を発症するリスクが3~4倍高いという研究報告もあります。社会的孤立、いじめや差別の経験、繰り返される挫折体験などが背景にあることが多いです。
グレーゾーンとされるケース
発達障害グレーゾーンとは、発達障害と同様の特性や傾向がいくつか認められるものの、診断基準を満たすほどではない状態です。環境や状況によっては大きな困難を抱えることがあり、診断の有無にかかわらず必要な支援や配慮を検討することが重要です。
ASDの人の生活と仕事
ASD(自閉スペクトラム症)の人が充実した生活を送り、能力を発揮できる仕事に就くためには、特性を理解し、適切な環境を選ぶことが重要です。
ASDの特性を活かせる職業・環境
ASDの人には向いている仕事と向いていない仕事があります。細部へのこだわり、正確性、論理的思考力などの強みを活かせる職業が適しています。
- IT関連職(プログラマー、システムエンジニアなど)
- 研究職・技術職(研究者、品質管理など)
- 事務職(経理、データ入力など)
就労支援専門家
就労支援制度の活用法
ASDの人の就労を支援する制度としては、就労移行支援サービスや障害者雇用制度などがあります。これらを活用することで、適切な職場環境の中で能力を発揮できる可能性が高まります。
まとめ:ASDと共に前向きに生きるために
ASD(自閉スペクトラム症)は生涯を通じて持続する特性ですが、適切な理解と支援があれば充実した人生を送ることが可能です。
- 自己理解と自己受容:自分の特性を理解し、強みと苦手を把握する
- 環境調整:特性に合った環境を選び、必要な配慮を受ける
- 支援リソースの活用:専門家や支援制度を積極的に利用する
- 強みの活用:特性を強みとして活かせる分野を見つける
発達障害支援カウンセラー