公開日:2025.09.24
複雑性PTSDと仕事の両立:症状理解から適切な職場環境の選び方まで
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- このコラムのまとめ
- 複雑性PTSDを抱えながら働くための実践的アプローチを解説。症状の特徴や職場での困難、適切な仕事の選び方、利用できる支援制度、治療と並行した就労方法まで包括的に紹介。自分のペースで回復しながら、自分らしく働くためのヒントが満載です。
もくじ
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複雑性PTSDと仕事の両立:実践的アプローチ
複雑性PTSDを抱えながら仕事を続けるには、自分の症状を理解し、適切な環境を選ぶことが重要です。ここでは、無理なく仕事を続けるための実践的なアプローチを紹介します。
自分に合った仕事の選び方
複雑性PTSDの方は、仕事の内容や環境によって症状が悪化することがあります。自分に合った仕事を選ぶことで、長く安定して働き続けることができます。
トリガーとなる環境を避ける方法
トラウマ体験を思い出させる「トリガー」になりうる環境は、可能な限り避けることが大切です。
- 過去のトラウマと関連する状況が少ない職場を選ぶ
- フラッシュバックを誘発する音や光、臭いなどが少ない環境を優先する
- 過度な監視や強い叱責がない職場文化を確認する
ストレス要因の少ない職種の例
複雑性PTSDの特性を考慮すると、以下のような職種や働き方が比較的ストレスが少ない傾向にあります。
- リモートワークが可能な職種(プログラマー、ライター、デザイナーなど)
- 自分のペースで進められる作業が中心の仕事
- 少人数の職場や、個人で完結する業務
働き方の工夫
仕事内容だけでなく、働き方を工夫することで症状の悪化を防ぎながら仕事を続けることができます。
短時間勤務から始める段階的アプローチ
一度に長時間働くことはストレスが大きいため、短時間から徐々に慣らしていくことが効果的です。
- 週2〜3日の短時間パートから始める
- 体調や症状に応じて徐々に時間や日数を増やしていく
- 休職からの復帰時は、リハビリ出勤から段階的に進める
複雑性PTSD当事者(30代・女性)
リモートワークなど柔軟な働き方の検討
在宅勤務やフレックスタイム制など、柔軟な働き方を選択できると症状管理がしやすくなります。
- 在宅勤務で自分の安全な環境から仕事ができる
- フレックスタイム制を活用し、調子の良い時間帯に働く
- 通勤ラッシュを避けられる時間帯の勤務を選ぶ
職場での対処法と自己管理
職場で働く中で症状が表れたときに備えて、対処法を身につけておくことが大切です。
症状が強まったときの対処テクニック
不安やフラッシュバックなどの症状が現れたときのために、簡単にできる対処法を知っておきましょう。
- グラウンディング法:今ここにいることを実感するため、5つの感覚を意識する
- 呼吸法:ゆっくりと深呼吸を繰り返し、自律神経を整える
- クールダウンのための短い休憩をとる
自分の状態を伝えるコミュニケーション方法
複雑性PTSDの方は、自分の状態や必要なことを伝えるのが苦手なことが多いですが、適切なコミュニケーションは誤解を減らし、必要なサポートを得るために重要です。
- 信頼できる上司や同僚に必要最低限の情報を伝える
- 具体的な状況と必要なサポートを明確に伝える
- 病名よりも、具体的な配慮事項を中心に伝える
すべての人に開示する必要はありません。自分にとって安全だと感じる範囲で、必要な人にのみ伝えることが大切です。
複雑性PTSDと共に生きる:長期的な視点
複雑性PTSDは短期間で完全に消えるものではなく、長い回復の過程を歩むことになります。しかし、適切な理解とサポートがあれば、症状と上手に付き合いながら充実した人生を送ることが可能です。
回復の道のりと仕事の関係
複雑性PTSDの回復プロセスは一直線ではなく、波があることを理解しておくことが重要です。仕事との関わり方もその波に合わせて調整していく必要があります。
- 回復には「安全と安定の確立」「トラウマの処理」「再統合と社会参加」という段階がある
- 症状が落ち着いている時期と悪化する時期があることを前提に、仕事のペースを調整する
- 完全な回復を目指すよりも、症状と上手く付き合いながら自分らしく生きることを目標にする
トラウマ専門カウンセラー
自分の価値を見出す働き方
複雑性PTSDを抱える方は自己評価が低くなりがちですが、自分自身の価値や強みを認識することで、より充実した働き方を見つけることができます。
自分の強みを活かす
複雑性PTSDによって培われた特性の中には、仕事において強みとなるものも少なくありません。
- 困難を乗り越えてきた経験からくる強い回復力と忍耐力
- 他者の感情や空気を敏感に感じ取れる共感力
- 詳細に物事を観察する能力や慎重さ
当事者の体験談と成功事例
複雑性PTSDを抱えながらも充実した仕事生活を送っている人々の体験から、希望や具体的なヒントを得ることができます。
複雑性PTSD当事者(40代・女性)
複雑性PTSDと共に生きることは決して容易ではありませんが、それぞれの人生において独自の意味と価値を見出すことができます。
回復の道のりは人それぞれですが、適切なサポートと自己理解を深めることで、自分らしい働き方と生き方を見つけることが可能です。
治療と並行した職場復帰・就労
複雑性PTSDの治療を受けながら働くことは、回復の重要な一歩となります。しかし、治療と仕事を両立させるには、計画的なアプローチと周囲のサポートが欠かせません。
治療の基本と仕事との両立
複雑性PTSDの治療は長期的なプロセスであり、仕事と並行して進めていく必要があります。
主な治療アプローチ
複雑性PTSDの治療には、複数のアプローチがあります。それぞれの特徴を理解し、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
- EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法):トラウマ記憶の処理を促進する心理療法
- 認知行動療法(CBT):トラウマに関連する否定的な思考パターンを変えていく
- 弁証法的行動療法(DBT):感情調整や対人関係のスキルを身につける
精神科医
復職に向けたステップアップ計画
休職していた方が職場に復帰する場合、段階的なアプローチが効果的です。
リハビリ出勤の活用
多くの企業では、本格的な復職前に「リハビリ出勤」や「試し出勤」の制度を設けています。
- 短時間(2〜4時間程度)から始め、徐々に時間を延ばしていく
- まずは簡単な業務から取り組み、少しずつ通常業務に移行する
- 無理をせず、体調不良時には休む勇気を持つ
主治医や支援者との連携方法
職場復帰や就労の成功には、医療機関や支援機関との適切な連携が欠かせません。
産業医・産業保健スタッフとの連携
中規模以上の企業には産業医が配置されており、職場と主治医の間を取り持つ重要な役割を果たします。
- 産業医面談を定期的に受け、体調や業務状況を報告する
- 必要に応じて、産業医から上司や人事部への配慮事項の伝達を依頼する
- 主治医の意見書を産業医に提出し、職場での配慮事項を検討してもらう
複雑性PTSDの治療は長期間を要するものですが、適切な治療と職場の理解・配慮があれば、働きながら回復していくことは十分に可能です。
無理せず、焦らず、一歩一歩進んでいくことが大切です。
利用できる支援制度とサポート
複雑性PTSDを抱えながら働く場合、様々な公的制度や支援サービスを活用することで、経済的・精神的な負担を軽減できます。ここでは、利用可能な主な支援制度と、それらを効果的に活用する方法について解説します。
障害者雇用と合理的配慮
複雑性PTSDの症状が一定以上あり、日常生活や社会生活に支障がある場合、精神障害者保健福祉手帳を取得することで、障害者雇用制度を利用できる可能性があります。
精神障害者保健福祉手帳の取得
- 申請には主治医の診断書が必要
- 障害の程度によって1級〜3級に分類される
- 有効期限は2年間(更新手続きが必要)
精神障害者保健福祉手帳取得者(36歳・女性)
就労移行支援・就労継続支援
一般企業での就労に向けた準備や訓練を行う福祉サービスを利用することで、段階的に就労を目指すことができます。
就労移行支援
- 利用期間は原則2年以内
- ビジネスマナーやパソコンスキルなどの職業訓練
- 就職活動のサポート(履歴書作成、面接対策など)
- 就職後の職場定着支援(最長3年間)
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休職中に受けられる経済的支援
複雑性PTSDの症状が悪化して休職せざるを得ない場合、以下のような経済的支援を受けることができます。
傷病手当金の申請方法
- 支給条件:業務外の病気やケガで働けない状態が連続3日間あり、4日目以降も休んでいること
- 支給額:標準報酬日額の約3分の2
- 支給期間:支給開始日から最長1年6ヶ月間
障害年金の可能性
- 種類:障害基礎年金(国民年金加入者)、障害厚生年金(厚生年金加入者)
- 等級:1級〜3級(症状の重さによる。3級は厚生年金のみ)
複雑性PTSDを抱えながら働くことは決して容易ではありませんが、これらの支援制度やサービスを上手に活用することで、心身の負担を軽減しながら自分らしい働き方を実現できます。
出典:
複雑性PTSDとは:基本的な理解
複雑性PTSD(Complex PTSD、C-PTSD)は、長期間にわたる反復的なトラウマ体験によって引き起こされる精神疾患です。従来のPTSDよりも幅広い症状を示し、人格形成や対人関係に深く影響します。
通常のPTSDとの違い
複雑性PTSDは一般的なPTSDと似た症状を示しますが、その発症原因や症状の現れ方に重要な違いがあります。
複雑性PTSD | PTSD | |
---|---|---|
原因となるトラウマ | 長期間・反復的・逃れられない状況でのトラウマ | 単発的な外傷体験 |
発症の時期 | 幼少期からの長期的な体験が多い | いつでも発症の可能性がある |
中核的な影響 | 自己概念や人格の形成に深く影響 | 恐怖反応や記憶の処理に影響 |
複雑性PTSDの主な症状
複雑性PTSDの症状は多岐にわたり、従来のPTSD症状に加えて、「自己組織化の困難」と呼ばれる3つの主要な症状領域があります。
感情調整の困難
- 感情の波が激しく、些細なことで強い怒りや悲しみに襲われる
- 感情が麻痺して何も感じなくなる時期がある
- ストレスへの耐性が低く、小さな変化にも過剰に反応する
自己認識の歪み
- 常に自分に価値がない、欠陥があると感じる
- 強い罪悪感や恥の感覚に苛まれる
- 自分は他の人とは根本的に違う、誰にも理解されないと感じる
対人関係の困難
- 他者を信頼することが非常に難しい
- 親密な関係を恐れる一方で、見捨てられることへの強い不安がある
- 人との距離感が極端になりやすい
トラウマ治療専門家
複雑性PTSDは単なる精神疾患ではなく、過酷な環境に適応するために発達した生存戦略の側面もあります。症状を理解することは、自分自身や他者への理解を深め、回復への第一歩となります。
複雑性PTSDが仕事に与える影響
複雑性PTSDの症状は、仕事の様々な側面に影響を及ぼします。特に対人関係、業務遂行能力、キャリア形成などに困難をもたらすことがあります。
職場でよく直面する困難
報連相や指示系統における混乱
複雑性PTSDの方は、「報告・連絡・相談(報連相)」が特に苦手なことが多く、この基本的なビジネスコミュニケーションに大きな困難を感じることがあります。
- 「できない」「分からない」と言えず、一人で抱え込んでしまう
- 質問することが「無能だと思われる」という恐怖につながる
- 相談することが「迷惑をかける」という罪悪感を生み出す
感情コントロールの難しさとその影響
- ストレス状況下で感情が急激に高まり、適切に対応できなくなる
- 批判や指摘に過剰に反応し、自分が全否定されたように感じる
- 過度のストレスで感情が麻痺し、無表情や無反応と誤解される
フラッシュバックと回避行動
複雑性PTSD当事者(31歳・女性)
職場での対人関係の課題
複雑性PTSDを持つ方は、職場での人間関係構築に独特の困難を抱えることが多いです。過去の対人トラウマが、現在の人間関係に影響を及ぼします。
- 同僚や上司の言動に隠された意図を探り、不信感を抱きやすい
- 褒められても素直に受け取れず、「何か裏があるのでは」と疑ってしまう
- 親しくなることへの恐れから、表面的な関係にとどめてしまう
自己評価の低さが仕事のパフォーマンスに与える影響
- 実際の能力よりも低いポジションや責任しか引き受けない
- 昇進や新しい役割への挑戦を避ける
- 自分の成果や成功を「運が良かっただけ」と過小評価する
複雑性PTSDが仕事に与える影響は多岐にわたりますが、これらの困難はトラウマへの自然な反応であり、決して「怠け」や「意志の弱さ」ではありません。
まとめ:複雑性PTSDを抱えながらも自分らしく働くために
複雑性PTSDを抱えながら働くことは決して容易ではありませんが、適切な理解とサポート、そして自分自身に合った環境を見つけることで、充実した職業生活を送ることは可能です。
- 自分の症状や特性を理解し、適切な職場環境を選ぶ
- 治療を継続しながら、段階的に仕事に適応していく
- 利用できる支援制度を積極的に活用する
- 小さな成功体験を積み重ね、自己肯定感を育てる
複雑性PTSDは、あなたの人生のすべてを定義するものではありません。自分のペースで、必要なサポートを受けながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。