- このコラムのまとめ
- 障害者が就職・転職するなら、資格の取得がおすすめです。社会的に需要が高い資格や、求人数の多い業界で役立つ資格を取得できれば、職場選びの幅が大きく広がり、障害があっても働きやすい職場に巡り会える可能性が大きく高まります。とはいえ、ひとくちに障害といっても、どのような発達障害や精神障害かによって相性のよい資格は異なるため、どの資格を取ればよいのか悩む人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、障害者が資格を取得するときに押さえておきたいポイントや、発達障害や精神障害に向いている資格を職種・業界別に紹介します。転職や就職に備えて資格取得を検討している人は、ぜひ参考にしてください。
障害者が資格を取得すると就職や転職に有利になる?
障害者が資格を取得すると、就職や転職で有利になる可能性が十分あります。資格を履歴書に記載できたり、面接時に伝えたりできるため、自己アピールの材料を増やすことが可能です。特定の知識やスキルを客観的に示せるため、採用担当者が業務を任せるイメージを持ちやすくなるでしょう。
また発達障害や精神障害を含む障害者にとっては、資格取得のための勉強を通じて、自分では気付かなかった得意な作業や、集中しやすい仕事を見つけられる可能性があるのもメリットです。
加えて資格取得を目指すことで、今後の見通しも立てやすくなります。例えば日商簿記3級を取得したら、資格を活かして就職して2級をめざすなどのキャリアパスを考えれば、将来像を描き出しやすくなりますよ。
障害者が資格を選ぶときには、3つのポイントをチェックしよう
障害者が自分に合った資格を選ぶときには、自分のキャリアパスに合致しているかや、資格に興味や関心を持てるかなどを考えてみるのが重要です。以下で、資格選びの際に押さえておくべきポイントを解説します。
自分のキャリアパスや目的に合った資格かは必ずチェック
障害者が資格を選ぶときには、将来どのように働きたいかというキャリアパスや、目的と合っているかを確認することが重要です。就職や転職で有利になりそうだからという理由だけで資格を選ぶと、せっかく取得しても活かせる場面が限られるケースがあります。
例えば事務職に就きたいなら、MOSや日商簿記検定などが適している資格です。一方、IT業界に就職したい場合はMOSよりもITパスポートが有利になる可能性があります。
また、資格取得によって想定される仕事内容が、自分の得意な作業や働き方の希望とどの程度一致しているかを事前にチェックすれば、資格取得後のミスマッチを減らせます。例えばPCスキルがあるものの人が多い職場が苦手な人や、睡眠障害の人は、在宅ワークがしやすいITスキルを狙ってみるといった考え方をしてみましょう。
これまでの経験と関係があったり、興味や関心をもてたりする資格がおすすめ
資格を選ぶときには、過去の経験とのつながりがあるかを意識すると、自分に合う資格を見つけやすくなります。例えば前職やアルバイトで触れてきた業務内容、得意だった作業、長く続けてきた趣味などと関係のある資格であれば、学ぶ内容を具体的な場面に結び付けやすくなりますよ。これまで積み重ねてきたことを土台にできるため、就職や転職の面接時に、自分の経験と資格をセットで説明できるのもメリットです。
発達障害や精神障害がある人にとっては、目指す資格に対して興味や関心を持てるかどうかも重要です。内容に少しでもおもしろさを感じられれば、体調に波がある中でも学習を続けやすくなりますよ。
一方で、経験や興味と結び付かない分野の資格を選ぶと、勉強そのものが負担になりやすく、取得後に活かしにくいケースも。
自分がどの場面なら能力を発揮しやすいかを振り返りながら、関連性のある分野から候補を絞り込んでいくことが大切です。
就職・転職活動を有利に進めたいなら需要のある資格を選ぶのも大切
就職や転職で資格を活かしたい場合は、その資格にどのくらい需要があるかを確認するのが必須です。例えば求人票や企業の募集要項でよく見かける資格は、実際の採用場面でも評価されやすい傾向があります。
発達障害や精神障害がある人にとっても、需要のある資格を持っていると、希望する働き方に合う職場を探す選択肢が増えやすくなりますよ。ただし、難易度が高すぎる資格を無理に目指すと負担になることも。
自分のペースで取り組めるレベルかどうかも合わせて、取得する資格を選ぶのがベターです。
発達障害や精神障害に向いている資格は?職種・業界別に解説
発達障害や精神障害に向いている資格には、さまざまなものがあります。以下で、事務職やIT関連など、障害者でも取得できるおすすめの資格を紹介しているので、自分に合いそうなものをチェックしてみてください。
事務職:一般事務をはじめとして幅広い業務で役立つ資格
発達障害や精神障害に向いている資格としては、まず事務職が挙げられます。一般事務をはじめとして営業・総務・人事・経理補助などさまざまな職域で活用しやすく、汎用性の高い資格だといえるでしょう。
MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)
MOSは、Word・Excel・PowerPointなどの操作スキルを証明する資格で、実際にアプリケーションを操作して解答する実技試験です。オフィスソフトの基本から実務でよく使う機能までをカバーし、事務職をはじめとしたパソコン業務への適性をアピールしやすい資格とされています。
難易度は初級から中級レベルで、日常的にOfficeを使っている人なら、テキストや問題演習を通じて合格を目指しやすい位置づけです。合格率は公表されていませんが、一般レベル(スペシャリスト)が約80%、上級レベル(エキスパート)が約60%といわれています。
発達障害のなかでは、決まった手順の繰り返しを負担少なくこなせ、マニュアルに沿って作業することが得意な自閉スペクトラム症傾向の人と比較的相性がよいと考えられるでしょう。
また、対人コミュニケーションの負荷を抑えたい社交不安やうつ病のある人が、パソコン中心の事務系業務を目指す際の入口資格として検討しやすい点も特徴です。
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日商簿記検定
日商簿記検定は、日本商工会議所が実施する簿記の検定試験で、1・2・3級などの段階に分かれています。企業の経理や会計実務に必要な知識を学べる資格として、多くの企業から評価されている資格です。
難易度は、基礎レベルの3級と実務寄りの2級が就職や転職でよく使われ、合格率はいずれもおおむね30〜40%台と、しっかり準備すれば十分に狙える水準。発達障害では、決められたルールや仕訳のパターンを整理して覚えることが得意なアスペルガー(ASD・自閉スペクトラム症)傾向の人と比較的相性がよい場合があります。
また、対人コミュニケーションの負荷を抑えたいうつ病や不安障害の人が、デスクワーク中心の仕事を目指す際にも使いやすい資格です。
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日商PC(データ活用)
日商PC検定データ活用は、日本商工会議所が主催するPCスキル検定で、Microsoft Excelを使って業務データの入力・集計・並べ替え・グラフ作成などを行い、結果を分析して資料にまとめる力を評価する資格です。
レベルは1・2・3級とBasicがあり、事務職で評価されやすいのは基礎から実務レベルにあたる2級と3級。3級は指示に従って正確かつ迅速に業務データベースを作成し集計やグラフ作成ができるレベル、2級は自ら最適なデータベースを構成し、分析結果を業務報告やレポートとしてまとめるレベルとされています。
決められた手順に沿ってデータを整理したり、ルールに基づいて作業を進めたりすることが得意なアスペルガー傾向の人や、数字やロジックを扱うのが好きな特性を持った人と相性がよい可能性のある資格です。
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秘書技能検定
秘書技能検定は、公益財団法人実務技能検定協会が実施するビジネスマナー系の資格で、社会人としての基本的な常識や接遇、電話応対などを学びながら確認できる検定です。1級・準1級・2級・3級の4段階があり、筆記試験では理論と実技に分かれてマナーや言葉遣い、職務知識などが問われます。
合格率は年度や級によって異なりますが、2級や3級はおおむね50〜60%前後となっていて、基礎から対策すれば狙いやすい難易度といえるでしょう。
相性がよい可能性があるのは、決まった言葉遣いや対応フローを覚えることが得意なアスペルガー傾向を含む発達障害グレーゾーンの人や、対人場面に備えてマナーを整理しておきたいHSPや不安を感じやすい人にも向いている可能性があります。睡眠障害や双極性障害でフルタイム勤務が難しい場合でも、段階的にビジネススキルを身に付けたい場合は検討する余地のある資格です。
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ビジネス文書検定
ビジネス文書検定は、公益財団法人実務技能検定協会が実施する民間資格で、社内外の報告書や案内状、メールなどのビジネス文書を、決まった形式と表現規則に沿って正しく作成できるかを測る検定です。
試験は1級から3級まであり、表記技能・表現技能・実務技能について、用字用語や文書の型、社内文書と社外文書の取り扱いなどが問われます。難易度は3級が基礎レベルで合格率は80%前後、2級は実務レベルで60%前後、1級は30%程度とされ、3級と2級は独学でも挑戦しやすい水準です。
ビジネス文書検定と相性がよいのは、決まった形式や定型文を覚えて使うことが得意なアスペルガー傾向の人や、読み書きは得意なものの、対面コミュニケーションに強い負荷を感じやすいHSPの人が挙げられるでしょう。また対面して作業をする必要のない資格なので、双極性障害や睡眠障害があり、体調の波を踏まえて自分のペースで学習したい人にも向いている可能性があります。
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IT関連:プログラマやシステムエンジニアなど、IT業界への就職・転職に役立つ
IT関連の資格も、発達障害や精神障害の人に向いている可能性があります。名前のとおりプログラマやエンジニア、ITコンサルタントなどIT業界全般の就職に活かせるものが揃っているので、以下で紹介している資格をチェックしてみてください。
ITパスポート
ITパスポート試験は、ITの基礎知識を所持していることを証明できる資格です。試験は120分で100問の多肢選択式問題が出題され、経営分野のストラテジ系・IT管理のマネジメント系・IT技術のテクノロジ系から幅広く問われます。 難易度は情報処理技術者試験の入門レベルと位置づけられ、合格率は年度によって変動するものの、おおむね50〜60%程度。初心者でも基礎から計画的に学習すれば、無理なく取得できる資格だといえるでしょう。
発達障害・精神障害のなかでも相性がよい可能性があるのは、情報や概念を整理するのが得意なアスペルガー傾向の人や、対面業務よりもPCでの作業を好みやすいHSPの人などです。
また、睡眠障害や双極性障害があり集中しやすい時間帯が限られる場合でも、日時と会場を自分で選択できるCBT方式のため、受験時の負担を軽減できます。
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基本情報技術者試験
基本情報技術者試験は、情報処理技術者試験の一つに位置付けられる国家資格で、ITサービスやシステムを作る人材に必要な基礎的な知識と技能を証明する試験です。IT戦略・マネジメント・プログラミング・ネットワークなど幅広い分野から出題され、ITエンジニアの登竜門とされています。難易度はITパスポートより一段高く、合格率は年度によって変わりますが、近年では約40%前後です。
基本情報技術者試験は、集中力や論理的思考力を要求されることから、アスペルガーを含む発達障害グレーゾーンの人や、対面よりパソコン作業を好みやすいHSPの人に向いている資格だといえます。
またITパスポートと同じく睡眠障害や双極性障害がある場合でも、通年実施のCBT方式のため、自分に合う時間帯や時期を選びやすい点がメリットになることがあります。
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応用情報技術者試験
応用情報技術者試験は、情報処理推進機構が実施する情報処理技術者試験の一つ。高度なIT人材に求められる応用的な知識とスキルを問う試験で、システム企画・設計・開発・運用まで幅広い領域が出題範囲に含まれます。合格率は例年20%程度とされ、基本情報技術者試験よりも一段高い難易度として位置づけられている資格です。
発達障害・精神障害のなかで向いているのは、論理的な整理やパターン認識が得意なアスペルガーの人や、アスペルガー傾向の特性を持つ発達障害グレーゾーンの人、1人で集中して取り組みたいHSPの人などが挙げられます。
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ネットワークスペシャリスト
ネットワークスペシャリスト試験は、情報処理推進機構が実施する情報処理技術者試験の高度区分の一つで、企業や組織のネットワーク基盤の設計・構築・運用を担う技術者向けの国家試験です。ネットワークアーキテクチャ・プロトコル・性能設計・セキュリティ対策など、専門的な知識と設計力が問われます。難易度が高い資格としても知られていて、合格率も直近では15%前後です。
論理的な整理やパターン認識が得意な特性を持つ発達障害・精神障害の人や、1人で集中するのが好きなHSPの人は向いている可能性がある資格だといえます。とはいえ難易度が高い試験のため、知識のない人はまずITパスポートなどの取得を検討してみるのがおすすめです。
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医療・福祉関連
発達障害や精神障害の人には、医療・福祉関連の資格もおすすめです。医療・福祉分野の求人数はとても多く、売り手市場であることから、資格を取得しておけば職場選びの幅が広がり、自分にあった環境を見つけやすくなりますよ。
社会福祉士
社会福祉士は、障害がある人や、日々の生活で困難を抱える人の相談に応じ、助言や指導、福祉サービスの提供や関係機関との連絡調整を行う専門職です。福祉系大学や指定養成施設などで必要な科目を履修し、年1回の筆記による国家試験に合格して登録することで資格を取得します。試験の合格率は年度によって差がありますが、おおよそ30%前後で推移していましたが、直近では50%を超えている資格です。
社会福祉士と相性がよい障害としては、人の話をていねいに聴き、背景を考えることに関心があるHSP気質の人が挙げられるでしょう。一方で感情労働の側面が強いため、双極性障害や睡眠障害など、体調の波が大きい人は勤務形態や働き方の調整が欠かせません。
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精神保健福祉士
精神保健福祉士は、精神障害者への社会復帰に関する相談や助言、日常生活への適応訓練などの援助を行う職種です。主な勤務先は精神科病院・クリニック・デイケア・地域生活支援センターなどで、関係機関との連携業務も行う資格です。 試験は年に1回で、受験資格には指定科目の履修や実務経験など。合格率は、直近で約50%前後となっています。
精神保健福祉士は、社会福祉士と同様に人の感情に敏感で気配りが得意なHSPの人に向いている職業です。もちろんそのほかの精神障害・発達障害の人でも、共感力が高く、コミュニケーション能力やチームワークが得意な気質をもっていれば、適職である可能性がありますよ。
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公認心理師
公認心理師は、保健医療・福祉・教育などの分野で心理的支援を行う国家資格です。心理状態の観察と分析、心理相談や助言、家族や関係者への支援、心の健康に関する情報提供などが主な業務です。
資格を取得するには、指定された心理学系のカリキュラムを修了したうえで公認心理師国家試験に合格し、登録を受ける必要があります。国家試験の合格率は回ごとに異なりますが、近年はおおむね50〜70%台です。
公認心理師と相性がよい発達障害・精神障害は、やはり人の感情に敏感で話を丁寧に聴くことに関心があるHSPの人。またコミュニケーション能力・言語化能力・判断力・客観性などのスキルに長けていれば、適性のある可能性があります。
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児童指導員
児童指導員は、児童養護施設や障がい児入所施設などで子どもの生活支援や学習支援、遊びや行事の企画などを行う職員を指します。国家資格のような専用試験があるわけではなく、特定の学部を経た大学卒業、社会福祉士や精神保健福祉士の資格、教員免許、児童福祉施設での一定期間の実務経験など、厚生労働省令で定められた要件を満たすことで資格を得られる仕組みです。
児童指導員は、子どもの小さな変化にも気づきやすいHSPの人に向いているといえます。またコミュニケーション能力をはじめとして、子どもと相対するときの根気強さ、子どもの特性を理解できる共感力や観察力などが高い人にも適した資格です。
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障害者が資格を取得するなら、就労支援サービスの利用も検討してみよう
障害者が資格取得を目指す場合は、就労支援サービスを利用するのもおすすめです。就労移行支援事業所や障害者職業能力開発校などの就労支援サービスを活用すれば、1人で学習や試験対策を進めるより効率的で、負担も抑えやすくなりますよ。
事業所によっては、テキスト学習や模擬試験のサポートを行っているところもあり、通所しながらMOSや日商簿記、IT系資格などを目指せるケースもあります。具体的に資格のサポートはなくとも、基本的なビジネススキルやPCスキルが学べる施設も多いので、ぜひ活用を検討してみてください。
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まとめ
今回は、障害者が資格を取得するときに押さえておきたいポイントや、発達障害や精神障害に向いている資格を職種・業界別に紹介しました。
発達障害や精神障害を抱えていても、資格の取得は十分に可能です。取得した資格を活用できれば、より自分が働きやすい職場に就職・転職できる可能性も高まりますよ。障害を抱えていて就職・転職先や今後のキャリアに悩んでいる人は、ぜひ本記事を参考にしてください。
