公開日:2025.06.27 最終更新日:2025.07.02
障害者雇用促進法とは?企業の義務や雇用率、支援制度まで徹底解説
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- このコラムのまとめ
- 障害者雇用促進法の基本から企業の義務、支援制度まで徹底解説。法定雇用率や納付金制度、差別禁止と合理的配慮の提供義務などの重要ポイントをわかりやすく紹介。最新の法改正情報や違反時の対応も網羅し、企業が障害者雇用を適切に進めるための実践的なガイドです。
障害者雇用促進法の基本
障害者雇用促進法は、正式名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」といい、障害のある人の職業生活における自立を促進し、職業の安定を図ることを目的とした法律です。
障害者雇用促進法の目的と理念
この法律は、障害のある人が「経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられる」という理念に基づいています。国や地方公共団体、企業には障害者雇用を推進する責務があり、障害者自身にも職業人としての自覚を持って能力開発に努めることが求められています。
雇用政策専門家
法律の成立背景と主な改正の歴史
障害者雇用促進法の歴史は、1960年の「身体障害者雇用促進法」に始まります。その後、社会の変化に対応して以下のような重要な改正が行われてきました。
年 | 主な改正内容 |
---|---|
1960年 | 「身体障害者雇用促進法」として制定 |
1987年 | 知的障害者も対象に加え「障害者雇用促進法」に改称 |
2013年 | 障害者差別禁止と合理的配慮の提供義務を追加 |
2018年 | 精神障害者を法定雇用率の算定基礎に追加 |
障害者総合支援法との違い
障害者の就労に関連する法律として、「障害者総合支援法」も存在しますが、両者の適用範囲は異なります。
- 障害者雇用促進法:一般企業等での雇用契約に基づく就労(一般就労)を規定
- 障害者総合支援法:福祉的支援を受けながらの就労(福祉的就労)を規定
両法律は互いに補完し合いながら、障害のある方の就労を多角的に支援しています。障害者雇用促進法が企業に対して障害者雇用の義務を課すのに対し、障害者総合支援法は障害福祉サービスの体系を規定しています。
障害者雇用促進法の対象
障害者雇用促進法は、障害のある方と事業主の両方を対象としています。この法律では、どのような障害のある方が対象となるのか、またどのような企業が雇用義務を負うのかが明確に定められています。
対象となる障害者の範囲
障害者雇用促進法における「障害者」とは、身体障害、知的障害、精神障害などがあり、長期にわたり職業生活に制限を受ける方を指します。雇用率の算定においては、原則として障害者手帳を持つ方が対象となります。
区分 | 対象となる方 | 確認方法 |
---|---|---|
身体障害者 | 1級〜6級の障害者 | 身体障害者手帳 |
知的障害者 | 知的障害があると判定された方 | 療育手帳等 |
精神障害者 | 統合失調症、うつ病等の方 | 精神障害者保健福祉手帳 |
障害者雇用コンサルタント
対象となる企業と事業主
障害者雇用促進法は、すべての事業主に適用されますが、障害者の雇用義務を負うのは一定規模以上の事業主です。
2025年現在、雇用義務を負う事業主の範囲は以下の通りです。
- 常時労働者40人以上の民間企業
- 国、地方公共団体、特殊法人など
法定雇用率は段階的に引き上げられる予定であり、それに伴い雇用義務の対象となる企業の範囲も拡大していきます。
出典:
障害者雇用のための支援制度
障害者雇用促進法に基づき、障害のある方の就労を支援するためのさまざまな制度が整備されています。これらの支援制度は、障害のある方の職業的自立を促進するとともに、企業の障害者雇用をサポートします。
職業リハビリテーション
職業リハビリテーションとは、障害のある方に対して職業指導、職業訓練、職業紹介などの支援を行い、職業生活における自立を実現するためのプロセスです。
職業カウンセラー
各種支援機関の役割
ハローワーク
公共職業安定所(ハローワーク)は、障害のある方の就職支援の最前線として、職業相談・職業紹介や求人開拓を行っています。
障害者職業センター
障害者職業センターでは、専門的な職業評価や職業指導、ジョブコーチによる職場適応支援などを提供しています。
障害者就業・生活支援センター
このセンターは、就労支援だけでなく生活支援も一体的に行い、障害のある方の職業生活全体をサポートします。
企業向け助成金制度
障害者雇用を促進するため、企業に対して以下のような助成金制度が設けられています。
- 特定求職者雇用開発助成金:障害者を雇い入れた事業主への助成
- 障害者トライアル雇用助成金:試行的雇用への助成
- 障害者雇用安定助成金:職場定着のための措置への助成
- 障害者作業施設設置等助成金:作業環境整備への助成
これらの助成金は、障害者雇用納付金制度に基づいて実施されており、適切に活用することで企業の障害者雇用を円滑に進めることができます。
障害者雇用を成功させるためのポイント

障害者雇用を単なる法的義務の履行ではなく、企業と障害のある方の双方にとって意義のあるものにするためのポイントを紹介します。
職場環境の整備
障害のある方が能力を発揮して働くためには、適切な職場環境の整備が不可欠です。物理的なバリアフリー化だけでなく、業務プロセスの見直しも重要です。
- バリアフリー設備の導入(スロープ、手すりなど)
- 業務マニュアルの視覚化
- コミュニケーション支援ツールの導入
- フレキシブルな勤務形態の検討
社員の理解促進
障害者雇用を成功させるためには、職場の社員の理解と協力が不可欠です。障害に対する正しい知識を持ち、お互いを尊重する職場文化を育みましょう。
障害者就労支援専門家
障害特性に応じた配慮の実例
身体障害のある方への配慮例
車いす使用者には通路の確保やデスクの高さ調整、視覚障害者には音声読み上げソフトの導入などが有効です。
精神障害・発達障害のある方への配慮例
静かな作業環境や個室の提供、明確で具体的な指示、定期的な休憩時間の確保などが効果的です。
適切な業務の選定と開発
障害のある方の特性を活かせる業務の選定や開発も重要です。「できる仕事」ではなく「強みを活かせる仕事」を見つけることが、長期的な就労成功につながります。
最新の法改正情報
障害者雇用促進法は社会情勢の変化に対応するため定期的に改正されています。最新の改正内容と今後の動向について解説します。
2023年改正のポイント
法定雇用率の段階的引き上げ
民間企業の法定雇用率が段階的に引き上げられることになりました。
適用時期 | 法定雇用率 | 対象企業 |
---|---|---|
2023年~ | 2.3% | 従業員43.5人以上 |
2025年現在〜 | 2.5% | 従業員40人以上 |
2026年7月〜 | 2.7% | 従業員37.5人以上 |
出典:
短時間労働者の算定見直し
週10時間以上20時間未満の短時間労働を行う重度障害者や精神障害者について、実雇用率に算定できるようになります。これにより、多様な働き方を選択する障害のある方の雇用が促進されます。
雇用政策研究者
出典:
今後の動向
今後は、テレワークなど多様な働き方に対応した障害者雇用のあり方や、AIやICT技術を活用した就労支援の強化など、新たな取り組みが進展する見込みです。企業は最新情報を収集し、計画的な対応を進めることが求められます。
企業に課せられる主な義務
障害者雇用促進法では、企業に対していくつかの重要な義務が課されています。これらの義務を適切に履行することは、法令遵守と社会的責任の観点から重要です。
障害者雇用率制度
企業は一定割合の障害者を雇用することが義務付けられています。雇用すべき障害者数は以下の計算式で求められます。
雇用すべき障害者数 = 常用労働者数 × 法定雇用率(小数点以下切り捨て) |
2025年現在の法定雇用率は民間企業で2.5%であり、今後も段階的に引き上げられる予定です。
障害者雇用納付金制度
法定雇用率を満たしていない企業は、不足する障害者数に応じて障害者雇用納付金(不足1人あたり月額5万円)を納める義務があります。
人事コンサルタント
差別禁止と合理的配慮の提供義務
企業は障害を理由とした差別的取扱いを禁止され、障害のある方が働きやすい環境を整えるための合理的配慮を提供する義務があります。
その他の法的義務
- 毎年6月1日時点の障害者雇用状況の報告
- 障害者を5人以上雇用する事業所での障害者職業生活相談員の選任
- 障害特性に配慮した施設・設備の整備
法令違反時の対応
障害者雇用促進法に違反した場合、企業にはさまざまな措置や罰則が適用される可能性があります。違反を未然に防ぐための対策を理解しておくことが重要です。
法定雇用率未達成の場合の措置
障害者雇用納付金の徴収
法定雇用率を達成できていない企業からは、不足する障害者数に応じて障害者雇用納付金(不足1人あたり月額5万円)が徴収されます。
障害者雇入れ計画の作成命令
法定雇用率の達成が著しく遅れている企業には、ハローワークから障害者雇入れ計画の作成が命じられることがあります。実雇用率が全国平均未満で不足数が5人以上の場合などが対象です。
障害者雇用コンサルタント
企業名公表制度
特別指導を受けてもなお障害者雇用状況が改善されない企業は、厚生労働大臣によって企業名が公表されることがあります。これは社会的制裁としての性格を持っています。
その他の罰則規定
障害者雇用状況の報告義務違反や虚偽報告には30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、助成金の不正受給には返還だけでなく、追加の納付が求められることもあります。
まとめ:障害者雇用促進法を理解して適切な雇用を実現するために
障害者雇用促進法は、障害のある方の職業的自立と社会参加を促進する重要な法律です。企業には法定雇用率の達成や合理的配慮の提供など様々な義務がありますが、これらは単なる法的義務ではなく、多様性のある職場づくりの機会でもあります。
人事ディレクター
公的支援制度を活用しながら、計画的かつ持続的な障害者雇用の取り組みを進めていきましょう。