公開日:2025.09.10

障害者雇用における「配慮」の問題と解決策:職場で必要な合理的配慮を得るためのガイド

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障害者雇用における「配慮」の問題と解決策:職場で必要な合理的配慮を得るためのガイド
このコラムのまとめ
障害者雇用における合理的配慮の概念や法的根拠を解説し、障害別の具体的配慮例を紹介。職場で必要な配慮を得るための実践的アプローチや、配慮ある職場の見極め方を詳述。配慮が得られない実態と対処法も網羅した、障害のある方が適切な環境で長く働くためのガイドです。

合理的配慮とは何か?基本的な理解

障害者雇用において「合理的配慮」という言葉をよく耳にしますが、その具体的な意味や範囲について正確に理解している人は多くありません。このセクションでは、合理的配慮の基本概念と法的背景について解説します。

合理的配慮の定義と法的根拠

合理的配慮とは、障害のある方が障害のない方と同等に権利を享受し、社会参加できるように行われる必要かつ適当な変更や調整のことです。

「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有するために、必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるもので、かつ過度の負担を課さないものをいいます。

障害者権利活動家

日本では、平成28年4月1日に施行された「障害者雇用促進法」の改正により、雇用分野における合理的配慮の提供が事業主に義務付けられました。

この法律における合理的配慮は主に以下の2つの場面で適用されます。

  • 募集・採用時:障害者と障害者でない人との均等な機会を確保するための措置
  • 採用後:障害者と障害者でない人の均等な待遇の確保または障害者の能力発揮の支障となる事情を改善する措置

合理的配慮と「過重な負担」の関係

合理的配慮を提供する際の重要なポイントは、それが「過重な負担」にならない範囲で行われるべきという点です。「過重な負担」かどうかは、以下の要素で判断されます。

  1. 事業活動への影響の程度
  2. 実現困難度
  3. 費用負担の程度
  4. 企業の規模
  5. 企業の財務状況
  6. 公的支援の有無

合理的配慮の「合理的」とは、障害者の権利と事業主の負担のバランスを取るという意味があります。配慮を求めるときは、自分の障害特性を理解し、職場でできる現実的な対応を一緒に考えることが大切です。

就労支援専門家

合理的配慮が義務化された背景と経緯

合理的配慮の概念は国際的な流れの中で発展してきました。以下に主な経緯をまとめました。

  • 2006年:国連総会で「障害者権利条約」が採択され、「合理的配慮の否定は差別である」と明記
  • 2016年:日本で「障害者雇用促進法」が施行され、雇用分野での合理的配慮提供が義務化
  • 2021年:「改正障害者差別解消法」が成立し、民間事業者の合理的配慮の提供が「努力義務」から「法的義務」に格上げ

障害者雇用における義務化の歴史を見ると、障害種別によって次のような違いがあります。

障害種別 雇用義務化の年
身体障害者 1976年(昭和51年)
知的障害者 1998年(平成10年)
精神障害者(発達障害含む) 2018年(平成30年)

このように、障害種別によって義務化までに約20年の開きがあり、特に精神障害や発達障害については比較的最近になって法的に認められた経緯があります。

合理的配慮は単なる法的義務ではなく、障害のある人もない人も共に働きやすい環境を作るための重要な考え方です。

適切な配慮によって、障害のある方の能力が十分に発揮され、企業にとっても貴重な人材を活かすことができるのです。

障害別に必要な合理的配慮の具体例

障害の種類や程度によって必要とされる合理的配慮は大きく異なります。ここでは、主な障害別に具体的な配慮例を紹介し、職場環境をより良くするためのヒントを提供します。

身体障害(視覚・聴覚・肢体不自由等)の配慮例

身体障害は外見からわかりやすいケースが多いものの、具体的にどのような配慮が必要かは個人差があります。

視覚障害の方への配慮例

  • 音声読み上げソフトや拡大読書器などの支援機器の導入
  • 会議資料の事前配布やテキストデータでの提供
  • 職場内の段差や障害物の除去、動線の確保

聴覚・言語障害の方への配慮例

  • 筆談ツールやチャットツールの活用
  • 電話対応を免除し、メールやチャットでの連絡に切り替える
  • 緊急時の視覚的アラームシステムの導入

私の職場では音声読み上げソフトが導入され、メールやドキュメントの処理がスムーズになりました。また、会議資料は事前にテキストデータで送ってもらえるので、内容を把握してから参加できます。

視覚障害のある会社員

精神障害の配慮例

精神障害は外見からは分かりにくく、症状の波があることが特徴です。

  • 勤務時間の柔軟化(時差出勤、短時間勤務、在宅勤務など)
  • 定期的な休憩時間の確保や静かな休憩スペースの提供
  • 通院のための休暇取得への配慮
  • 業務指示は明確かつ具体的に行う

発達障害の配慮例

発達障害のある方は、コミュニケーションや感覚過敏、注意力の維持などに困難を抱えることがあります。

  • 作業手順や指示内容の視覚化(図解、チェックリスト等)
  • 感覚過敏に配慮した環境調整(照明の調整、パーティションの設置等)
  • イヤーマフやノイズキャンセリングヘッドホンの使用許可
  • 指示系統の一本化(複数の人から指示を受けない)

知的障害の配慮例

知的障害のある方は、抽象的な概念の理解や複雑な指示の処理に困難を抱えることがあります。

  • 業務内容をわかりやすく説明したマニュアルの作成(写真や図を活用)
  • 漢字にふりがなを振る
  • 一度に伝える情報量を減らし、段階的に指示する
  • チェックリストを活用した業務進行の確認

精神障害は体調の波があるため、調子が悪い時に無理をせず休める制度があると安心です。また、病状が悪化する前に相談できる人がいることで、長く働き続けられる環境になります。

精神保健福祉士

これらの配慮例はあくまで一般的なものであり、実際には個人の障害特性や職場環境、業務内容に応じた調整が必要です。

最も重要なのは、障害のある本人と丁寧にコミュニケーションを取りながら、最適な配慮を一緒に考えていくプロセスです。

職場で適切な配慮を得るための実践的アプローチ

障害のある方が職場で必要な配慮を受けるためには、適切な伝え方や働きかけが重要です。このセクションでは、職場で合理的配慮を効果的に得るための具体的な方法を紹介します。

①自分の障害と必要な配慮を整理する方法

配慮を求める前に、まず自分自身の障害特性と必要な配慮を明確に理解し、整理することが大切です。

  • 自分の障害によって「困難なこと」と「できること」を具体的にリストアップする
  • 必要な配慮を「絶対に必要なもの」と「あるとよいもの」に優先順位をつける
  • 配慮を受けることで、どのように業務遂行能力が向上するかを具体的に考える

配慮をお願いする際には、「これができないから配慮してほしい」だけでなく、「こういう配慮があれば、このような成果を上げられる」という前向きな伝え方をするとよいでしょう。

障害者雇用コンサルタント

②雇用前・面接時に確認すべきポイント

適切な配慮を得られる職場かどうかは、雇用前の段階から確認しておくことが重要です。

  • 企業の障害者雇用に関する方針や取り組み実績を事前にリサーチする
  • 障害者雇用の経験や同じ障害を持つ方の雇用実績について質問する
  • 必要な配慮について、実現可能かどうか率直に話し合う

③職場に配慮を申し出る効果的な伝え方

入社後や既に働いている職場で配慮を求める場合、その伝え方によって相手の理解度や対応が大きく変わります。

  • 配慮が必要な場面や状況を具体的に説明する
  • 自分自身でも工夫していることを伝える
  • 配慮を受けることで期待できる業務効率や成果の向上を伝える

「○○障害なので△△は苦手ですが、□□をして対処の工夫をしています。●●のような配慮を頂ければ、業務を遂行していくことが出来ます。」このように具体的に伝えると、相手も対応しやすくなります。

就労支援専門家

④上司・同僚の理解を促進するコミュニケーション術

合理的配慮を円滑に受けるためには、直接の上司だけでなく、一緒に働く同僚の理解と協力も欠かせません。

  • 障害に関する必要最低限の情報を、簡潔かつわかりやすく伝える
  • 配慮が特別扱いではなく、能力を発揮するための条件整備であることを伝える
  • 自分の強みや貢献できることも積極的にアピールする

定期的な振り返りの機会を設け、配慮の効果を確認したり必要に応じて調整したりすることも重要です。

合理的配慮は一度決めたら終わりではなく、業務内容の変化や自身の状態に応じて見直していくプロセスだということを忘れないようにしましょう。

配慮ある職場環境を見極める・選ぶポイント

障害のある方が長く安心して働くためには、自分に合った配慮が得られる職場を選ぶことが重要です。このセクションでは、配慮ある職場環境を見極めるためのポイントと、そのような企業と出会うための方法を解説します。

企業の障害者雇用への取り組み姿勢を確認する方法

企業の障害者雇用に対する姿勢は、応募前や面接時にチェックできる様々な情報から読み取ることができます。

  • 企業のウェブサイトやCSRレポートに障害者雇用の取り組みが具体的に記載されているか
  • 障害者雇用率が法定雇用率を上回っているか
  • 障害者雇用の歴史(実績年数)が長いか
  • 特例子会社を設立するなど、積極的な取り組みがあるか

企業の障害者雇用への取り組みを知るには、求人情報だけでなく企業のSDGs報告書や社会貢献活動なども参考になります。また、障害者雇用に関する外部評価を受けている企業は、一定水準以上の取り組みをしていると考えられます。

人事コンサルタント

面接時に確認すべき質問リスト

面接は企業側があなたを評価する場であると同時に、あなたが企業を評価する重要な機会でもあります。

  • 「障害のある社員のサポート体制はどのようになっていますか?」
  • 「私と同じような障害を持つ方は現在働いていますか?」
  • 「障害に配慮した設備や制度はありますか?」
  • 「配属先の部署は障害者雇用の経験がありますか?」

信頼できる障害者雇用求人の探し方

障害者雇用で配慮ある職場環境と出会う可能性を高めるには、求人情報の入手先が重要です。

  • ハローワーク:障害者専門の窓口があり、求人情報だけでなく企業情報も得られる
  • 障害者向け就職サイト・エージェント:専門性の高い求人情報と個別サポートが受けられる
  • 就労移行支援事業所:企業との関係構築があり、適性に合った紹介が受けられる

障害者専門の就職支援サービスを利用するメリットは、一般的な求人サイトには掲載されていない優良求人にアクセスできることと、応募前に企業の障害者雇用の実態について詳しい情報を得られることです。

障害者雇用エージェント

また、職場見学や実習(インターンシップ)の機会を活用することで、求人情報だけでは把握しきれない職場の雰囲気や実際の配慮状況を知ることができます。

適切な配慮が得られる職場で働くことは、あなたの能力を最大限に発揮し、長く安定して働き続けるための重要な条件となるでしょう。

障害者雇用で「配慮してもらえない」実態と問題点

合理的配慮は法律で義務付けられているにもかかわらず、実際の職場では十分な配慮が得られないケースが少なくありません。このセクションでは、配慮が得られない実態とその背景にある問題点を明らかにします。

配慮が得られない典型的なケース

障害のある方が職場で経験する「配慮してもらえない」状況には、様々なパターンがあります。

  • 採用時に伝えた配慮事項が現場に共有されていない
  • 最初は配慮があったが、時間の経過とともに減っていく
  • 「みんな同じ」という理由で特別な配慮を拒否される
  • 配慮を求めると「わがまま」と受け取られる

入社時に人事部には配慮事項を伝えましたが、実際の配属先の上司には何も伝わっていませんでした。自分から説明しようとしても「みんな大変なんだから特別扱いはできない」と言われ、必要な配慮が得られず、業務に支障が出ていました。

精神障害のある会社員

障害が見えにくい場合の特有の困難

精神障害や発達障害、内部障害など、外見からは障害が分かりにくい「見えない障害」を持つ方は、周囲の理解を得ることに特有の困難を抱えています。

  • 「見た目は普通」なため、配慮の必要性を疑問視される
  • 体調の波があることを怠けと誤解される
  • 自分の障害を説明することが難しく、適切な配慮を求められない

配慮不足が招く心理的・業務的影響

必要な配慮が得られない状況が続くと、障害のある労働者にどのような影響が生じるのでしょうか。

  • 心理的影響:自己肯定感の低下、孤立感、不安やストレスの増大
  • 業務面の影響:生産性の低下、ミスの増加、能力を発揮できない
  • 長期的影響:離職、キャリア形成の阻害、経済的不安定
障害種別 1年後の職場定着率
身体障害者 60.8%
精神障害者 49.3%
一般労働者(参考) 88.4%

厚生労働省の調査によると、障害者の職場定着率は一般労働者と比較して低く、特に精神障害者は約半数が1年以内に離職しています。この背景には、適切な配慮が得られないことによる職場不適応が大きな要因となっています。

見えない障害の場合、「普段はできているのに、なぜ今日はできないの?」と言われることが多いです。体調や環境によって症状が変化することを理解してもらうのは本当に難しいです。

発達障害のある女性

出典:

配慮が得られない場合の対処法

必要な配慮が得られない状況は非常に辛いものですが、諦める前にできる対処法がいくつかあります。このセクションでは、配慮が得られない場合の具体的な解決策を段階的に紹介します。

社内での解決策:人事部門や上位者への相談

配慮が得られない場合、まずは社内での解決を試みることが基本です。

  • 直属の上司との再相談:具体的な事例や影響を示しながら、配慮の必要性を伝える
  • 人事部門への相談:現場で解決しない場合は、人事担当者に状況を説明する
  • 障害者雇用担当者への相談:専任の担当者がいる場合は、その人に相談する

相談する際には、感情的にならず、具体的な事実と影響を伝えることが大切です。「○○という状況で△△の配慮がないと、□□という困難があり、業務に支障が出ています。●●のような配慮があれば、より効果的に働けるのですが」と建設的に伝えましょう。

産業カウンセラー

外部支援機関の活用方法

社内での解決が難しい場合、以下のような外部支援機関に相談することで状況が改善する可能性があります。

  • 障害者就業・生活支援センター:企業と障害者の間に入っての調整や定着支援
  • 地域障害者職業センター:ジョブコーチによる支援や事業主への助言
  • ハローワーク:職場定着指導官による職場訪問や企業への助言

ジョブコーチ支援は特に効果的です。第三者が入ることで、自分では伝えにくかった配慮事項も客観的に伝えてもらえます。

職業カウンセラー

転職を選択する場合の準備と注意点

様々な対処法を試しても状況が改善せず、心身の健康に影響が出ている場合は、転職を検討することも選択肢です。

  • 在職中に準備を進める:可能であれば、現職に就いたまま転職活動を行う
  • 就労支援機関の活用:就労移行支援事業所や障害者職業センターのサポートを受ける
  • 障害者専門の転職サイト・エージェントの利用:障害特性を理解した上での求人紹介
  • 前職での経験の振り返り:どのような環境・配慮があれば働きやすいかを整理する

転職は大きな決断ですが、適切な配慮が得られない環境で無理を続けることは、心身の健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。自分の健康と権利を守るために、状況に応じた適切な判断をすることが大切です。

まとめ:適切な配慮を受けながら働き続けるために

合理的配慮は、障害のある方が能力を発揮し、長く働き続けるための重要な権利です。適切な配慮を受けるためには、自己理解を深め、必要な配慮を具体的に伝えるスキルを身につけることが大切です。

また、支援機関を活用し、自分に合った職場環境を見極める目を養うことも重要です。配慮が得られない場合も、諦める前に社内外の相談窓口を活用しましょう。

障害は個性の一部であり、適切な配慮と環境があれば、誰もが自分の可能性を最大限に発揮することができます。「できないこと」ではなく、「どうすればできるか」を共に考える社会づくりが大切です。

障害者就労支援専門家

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